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Googleで検索した医療情報は信用できるのか?(2018年6月)

※この記事は2018年6月7日に投稿されたものです

こんにちは、たけCです。

今月は予定を変更したテーマでお届けします。

現在わたしの記事では『連載企画: AIの歴史を紐解く!』を続けている途中なのですが、このタイミングでどうしても伝えておきたいことがあったので変更させていただきました。楽しみにしてくださった方、申し訳ありません。来月までお待ち下さい。

今日のテーマは、『Google検索と医療情報』

2018年6月1日、医療機関の広告に関して新しいガイドラインが施行されました。
これは医療機関(病院や歯科、クリニックなど)のHPを、従来の広告と同等に扱い、訴求する内容やその表現について厳しい制限が課されるようになったということです。

www.asahi.com


このガイドライン自体はとても良い取り組みである、と思います。
しかしながら、それでもまだWEB上には「あたかも真実のように見せかけた、正しくない医療情報」が溢れてしまっているし、もしかすると今まで以上に「適切とはいえない医療情報」が広まってしまう恐れがあります。

そこで今日は、ネット検索と医療情報についてのこれまでとこれからをまとめてお話します。

目次
・2018年現在、人が困ったときはまず何から調べ始めるか?
・Googleで上位表示された=信用してもいい情報?
・人の健康に関する情報を発信する立場として心掛けること


本題に入る前に、私の紹介と立場の表明をしておきましょう。

この記事を書いているのは、株式会社iCAREに勤めているWEBマーケターの小川剛史です。
すでにご存知でしょうがiCAREは、企業による従業員の健康管理と働くひと自身のセルフケアを両面からサポートするサービスを提供しています。そのサービスの価値をまだ知らない人々に広めていく役割を、マーケターである私が担っています。

サービスの価値を知っていただくにはいくつかの方法がありますが、私は主にWEBを通じた方法を得意としています。WEBで商品やサービスを売るという仕事には約10年前から関わっています。

ですので、一般の方に比べてGoogle検索についてはかなり詳しく知っていますし、どうしてもGoogleに対して肯定的なポジションをとってしまいがちです。また医療に関する専門的な教育を受けたことはないため、個々の情報が医学的に正しいのか間違っているのかを論じることができる立場ではありません。

今日の記事をよんでいただくことで、Google検索上で医療情報はどのように扱われているのか?という点を理解していただけるかと思います。


【前半】2018年現在、人が困ったときはまず何から調べ始めるか?

少し想像してみてほしいのですが、あなたがここ一ヶ月ぐらいの間に「困ったなぁ、これってどうしたらいいんだろ?」と問題を抱えてしまったときに、まず何から調べていますか?

隣りにいる職場の同僚ですか?家族ですか?
専門書を探しに書店に行きますか?
自分の頭だけで考えて解決策を見つけますか?

まず間違いなく、あなたは何か分からないことがあったり不安に思うことがあれば、インターネットを使って検索したのではないでしょうか。直接的に分からない言葉をそのまま検索しているかもしれません。直接ではなくヒントになりそうなことを知りたくて、「選び方」とか「止め方」とか「事例」といった言葉をかけ合わせて検索したかもしれません。

私たちは常にインターネットにつながることができる環境を持ち歩いています。スマホですね。最近では、検索する場所というとGoogleやYahoo!のことばかりではなく、TwitterやInstagramといったSNS、Youtubeといった動画サイトも含まれます。

健康情報をインターネットから手に入れる人々

調べるまでもないことですが、私たちが何かに困ったときにはまずネットで調べます。まるで水が欲しければ水道の蛇口をひねるかのごとく、条件反射的に調べる=ネット検索という習慣が染み付いているのです。

信頼性がひときわ大切な健康に関する情報ではどうでしょうか?

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厚生労働省HPより引用

平成26年度の厚生労働白書によると、私たちが健康情報にふれる頻度でいえばインターネットはテレビに次いで高くなっています。もっと丁寧に解釈すると、見ようと思わなくても見続けることの多い受動的なテレビに対して、何かを見たいと思って見続けることの多い能動的なネットの違いがあります。

私たちがいかに健康に関して困りごとが起きたときにインターネットで情報を調べているのかがよくわかります。
※おそらく健康オタクではないごく普通の人は、健康に関することを調べるときは何か問題が起きたり、不安を覚えた時だけのはずです。

反対に、健康情報を発信している人は誰なのか?

健康情報への接触度はテレビについで高かったインターネットですが、その信頼性についてはどうでしょうか。

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厚生労働省HPより引用

かかりつけの医師や医学書に劣ることは分かりやすいですが、健康雑誌や口コミ・友人と同等以上の信頼度を得ていることについては少し意外に思えます。

では、それなりの信頼度をもって読まれているインターネット上の健康情報は一体どこの誰が書いているのでしょうか?

実際に「ダイエット 方法」での検索結果を調べてみましょう。
(2018年6月2日現在 ※表記の順位は、検索する人・検索するタイミングによって上下します。)

1位と2位は「cury」というダイエットや運動についてのメディアサイトです。運営会社は「Cury[キュリー]運営事務局 」とだけ書かれており、法人なのか個人なのかはわかりません。

3位はYouTubeへのリンクで、投稿者は個人のいわゆるYouTuberのようです。

10位(1ページ目に表示される)までを確認しましたが、一般企業または個人が運営するメディアかブログが並んでいます。

12位にはPanasonicが運営するクラブパナソニック、
15位にグリコが運営するPowerProduction、
59位にタニタ運営のカラダカルテ、と有名企業が出始めます。
結局、100位までに公的な機関または医療機関による記事は表示されませんでした。

公平を期すために注意点があります。
「ダイエット 方法」という検索キーワードは特にSEOが盛んなキーワードであり、かつ公的機関も医療機関もダイエットという単語をサイト上で使用する機会はほとんどないためこのような極端な例になっています。

しかしながら、私個人としてはこのことこそがネット上における医療情報の問題を端的に表していると考えます。

健康情報と医療情報の境目

もう一つ、間違いなくセンシティブな医療情報といえる「がん 治療」での検索結果も調べてみました。
1位には国立がん研究所による一般の方向けのページです。2位は製薬会社のファイザー運営のサイト、3位に株式会社GMSという一般企業の運営サイトになっています。

10位までを調べてみると以下のようになっています。
・公的機関 1つ
・医療機関 5つ
・保険会社 1つ
・放送会社 1つ
・一般企業 2つ

この検索結果についても注意点があります。
2017年2月にGoogleは医療に関するキーワードの検索結果を調整しました。その結果として今のように公的機関や医療機関などが上位を占めていますが、調整以前の段階では一般企業によるキュレーションメディア(いわゆるまとめ記事)や個人のブログや口コミサイトで上位がが占められていました。

以降もGoogleは医療に関する検索結果の調整を毎月のように行っており、やっと今のような「まだマシ」な検索結果となったのです。

このようにGoogleとしてはプロが扱うべき医療情報(例えばがん)と、一般の企業や個人でも扱える健康情報(例えばダイエット)をどこかで切り分けているようですね。

医療情報について専門機関が発している情報を優先して上位表示している今の状況を、私は好ましい状況であると思っています。一部では個人の表現が制限されているといった批判もありますが、人の生命に強く影響する情報については一定の制限はあって然るべき。というのは法解釈としても間違っていません。

しかしどこからが医療情報であり、どこまでが健康情報なのか、その判断をGoogleに任せっきりになってしまっている状況は好ましいものではありません。

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←「ダイエット 方法」             「がん 治療」→

【後半】Googleで上位表示された=信用してもいい情報?

日本人が健康や病気に関して調べる手段の筆頭がインターネットです。そしてインターネットで調べようとした時に、9割ぐらいの大多数がGoogle検索を使うはずです。

ここで前提知識として知っていただきたいことは、Yahoo検索=Google検索であるということです。

正確に説明します。もともとYahoo!JAPANはとGoogleはそれぞれ独自の検索エンジン(検索結果で順位を決める仕組み)を使っていました。が、2010年12月にYahoo!JAPANはGoogleの検索エンジンに完全移行されました。ですので、日本において「ネットで検索する」といえば、「Googleで検索する」と同じ行動を指すといってもよいでしょう。
※実際にはYahoo!の方が自社関連サービスを差し込んで表示していたりするので、Googleとまったく一緒にはなりません。

そして、Google検索においてより上位に表示させるように取り組むことをSEO(検索エンジン最適化)と呼びます。

SEOされた情報は信じられない

私自身、自社のWEBサイトをいかに上位表示させてユーザーにアクセスしてもらうか、を仕事として長年取り組んできています。この仕事をはじめたころには「SEO」という言葉自体が知られていることは皆無であり、「なんの仕事しているの?」と聞かれても答えるのに窮していたことを覚えています。

しかし、3年ほど前から徐々に普通の会話の中でも「SEO」という単語を耳にすることが増えました。しかしSEOとは一体何なのかということは正確には知られていないようです。

2年前、Instagramで人気のGENKINGさんが、とあるイベントでこのような発言をされました。

「Googleは使わない、SEO対策しているから」

似たような発言、意見はSNS上でもよく目にします。
GENKINGさんの発言の意図は正確には分からないのですが、それらの意見をまとめると「SEOされている(=Googleで上位表示されている)情報は信じられない」ということのようです。

「そんなことはない!SEOはユーザーのためになる情報を、検索すればすぐに簡単にわかりやすく届けるための取り組みだ。」

と私は反論します。が、残念ながら実態としては「ユーザーのためにならないような価値の低い情報でも、好ましくない手法によって検索結果の上位に表示させる取り組み」が行われています。

このようなSEOに対する2種類のアプローチを「ホワイトハットSEO」と「ブラックハットSEO」と呼びます。ホワイトハットSEOはあくまでもユーザーに届く価値を最優先にした手法に対して、ブラックハットSEOはGoogleの検索エンジンのスキを突いて裏技的に上位表示を狙う手法のことです。

そして、医療情報の検索結果ではブラックハットSEO(やそれに近しいグレーな手法)によって上位表示を狙うWEBサイトが実在している点が問題となっています。


ブラックではないが、グレーだったWELQのSEO

何をもってそのSEOがホワイトなのか?ブラックなのか?
実はSEO(正確にはGoogleに対するSEO)についてはかなり明確なガイドラインが存在し、公開もされています。ガイドラインの中には、ブラックな手法についても丁寧に言及されています。

私がSEOに取り組み始めた2009年頃は、どちらかといえばブラックな手法の方が主流でした。しかしGoogleは毎年のように「ユーザーにとって本当に価値がある(=信じても良い)情報をより上位に表示」し、「ブラックな手法を用いるサイトは上位に表示されにくく」する対策を取り続けてきました。

その結果、2013年頃からはブラックハットSEOはなりを潜め、ユーザーにとって価値ある情報を記事として公開することがもっとも有効なSEOであるという状況ができつつありました。

そんな中で、大きな波紋を呼んだのが2016年のWELQ問題です。
WELQ問題の経緯などは検索してください。ここで問題として取り上げるのは、そのブラックではないがグレーなSEO手法です。

WELQというサイトは「キュレーションサイト」(あるいは、まとめサイト)と呼ばれるものです。キュレーション自体はブラックでもグレーでもありません。複数のサイトの内容を適法に引用して、読みやすく理解しやすくまとめる手法は悪くない記事の書き方です。

しかしWELQでは、キュレーションという手段を用いて、記事を書く手間(時間)を大幅に削減させ、非常に長文(2万文字以上)の記事を大量生産することでGoogleにWELQは専門的に医療情報を取り扱っている信頼性の高いサイトであると誤認させるように仕向けていました。

この手法自体をSEOとしてはもちろんブラックではありませんし、グレーとも言いづらいぐらいSEO界隈では普通の方法です。

WELQが問題となったのは、医療情報という正確性が厳格に求められる分野において、間違った情報であったり適切ではない表現のままで記事を制作していた。さらに、その記事に対する責任をWELQが持たなかったことにあります。

WELQ問題を契機となり、2017年2月にGoogleは医療情報における検索エンジンの調整を実施し、現在のような公的機関・医療機関が発信しているページを上位表示する状況となったのです。


公式サイトに規制がかかった→ブラックなSEOに走る可能性

WELQと同じような手法をとっていたサイトは他にもありました。それらのサイトが1年前から軒並み検索順位を大きく落とし、代わりに厚労省のページや国立がんセンターなどのページが1位や2位に表示されることになりました。

さて、冒頭の話題に戻ります。
2018年6月から医療機関の公式HPも広告とみなした規制がかけられるようになりました。
どういった記述が規制対象なのかを知りたい方はこちらの資料にまとまっています。

いわゆる「No.1表記」や「誇張表現」への規制はもちろん、患者による体験談や回復を示すイラストの利用も規制の対象となっています。

このように表現の幅が狭められている状況では、Google検索で上位表示するためにホワイトハットSEOをしていたのではあまりに労力と時間がかかりすぎてしまうため、ブラックハットSEOに頼ってしまう医療機関が増えてくるのではないかと危惧しています。

具体的には「リンクスパム」という手法です。

Googleがそのページを上位表示するかどうかを判断する基準のひとつに「被リンク」があります。被リンクとは、外部のサイトからリンクをはられることです。価値あるサイトから被リンクを多くはられているページほど、より上位表示されやすくなるということです。

この被リンクを増やすために、自作自演で複数のサイト(サテライトサイトと言います)を制作して特定のページをリンクをはる「人工リンク」は明確なGoogleのガイドライン違反です。Googleは人工リンクというものにかなり強く目を光らせて監視していますが、すべてを即時に対処することは出来ないために未だにブラックハットSEOの代表的手法です。

人工リンクのために、中古ドメインを購入しサテライトサイトを作る場合、そこに書かれる情報のほとんどは特定のサイトへ誘導することを目的に作られているために公平性に乏しく、決して正しいとは言えない情報が並んでしまいます。しかしながら、これらサテライトサイトは(表面上は)医療機関が作っているのではなく、個人が運営しているサイトであるために、新しい医療機関の広告ガイドラインの抜け道としても使えてしまいます。

もちろん医療機関とはいえ、民間企業ですのでリンクスパムという手段によって検索上位を狙うことは商売の自由の範囲内です。私からすればレベルの低い病院であり信頼性のかけらもないと判断できますが、、、

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WELQのトップページ。デザインがきれいで正しい情報っぽさがある


人の健康に関する情報を発信する立場として心掛けること

インターネットには自浄作用が強く働きます。この2年間、ネット上の医療情報は急速に浄化されてきました。

2018年6月から施行された医療機関への新しいガイドラインも健康上の悩みを抱える人達のためになる取り組みであり、さらにネット上の医療情報は有益なものになっていくことでしょう。

しかしながら、それでもまだGoogle検索に悪意ある医療情報が溢れてくる力学は残っています。

例えばSEOとしてのリンクスパム。もちろんリンクスパムは明らかなGoogleのガイドライン違反ですので、個別のサイトに対応がとられていくのは時間の問題です。それでも雨後の筍のように次々とブラックハットSEOに手を染めるサイトが後を絶たないのが現状です。

さらにWELQのようにGoogleのガイドライン違反ではないが倫理的に好ましくない手法によって、検索結果の上位表示を狙うサイトが現れることがあるかもしれません。やっかいなことに今の医療情報に関する検索結果は医療機関が発信するページを優先しています。もしも、医療機関がWELQのようにグレーな手法でSEOをしかけてきた場合はどのように対処すればいいのでしょうか?

理想的には、医療機関が正しいSEOの知識を身に付けた上で広く深く情報発信を続けることです。

しかしそのためには長い時間が必要になると思います。正直に言いますと、現状の医療情報ガイドラインに忠実に従った情報発信では、十分にSEOをすることができません。検索エンジンの特性を念頭にしたガイドラインを国が制定してくれることが望まれます。

国や医療機関が積極的な情報発信をしてくれるようになるのを待つ間にも、私たちにできることはないでしょうか。

私たちiCAREのように、医療機関ではないが健康に関する情報を発信することがある立場として、ユーザーにとって価値ある情報を届ける体制は強化していく必要があります。

まだまだ改善すべきことも見受けられるGoogle検索、そしてSEOではありますが、一昔前に比べれば格段に価値ある情報なら自然に広まる環境になりました。一般企業や個人という立場であっても、健康に関する情報を発信する際には「この情報は本当に読み手にとって価値あるものか」ということを何事にも優先する姿勢が大切である、と私は考えます。

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