
甘くないもの
※この記事は2020年1月14日に投稿されたものです
タピオカを一つ、奥歯で噛み潰す。
食いしばるなんて可愛くない顔がみられないように。少しでも可愛いが崩れないように。
少しでも君に可愛いと思ってもらえたら、未来は変わるかもしれないから。
今日のために巻いた髪も、お気に入りのリップも、未来を変えることなんてできなくて、ずっと前から未来は決まっていたんだと思う。
せめて君に可愛かったと思わせたくて、褒めてくれた白のニットをクローゼットの奥から引っ張り出した。
1月の空はコンクリート色をしていて、今にも泣きそうな暗い顔をしている。
君との距離が少し遠くなりそうだったから、傘は持たずに出かけた。
いつもの駅のいつもの場所で君を待った。
いつものパスタを選んで、いつもの道を通って、いつもの笑顔を盗み見た。
いつもの黒糖タピオカを頼んで、いつもと違うイルミネーションの道で、いつもと違う、真剣な顔の君の言葉を待った。
ぐにゃり。
また一つ、タピオカを噛み潰す。
可愛いと思ってくれたら、君が用意してきた言葉を変えられると思ったから。
だから髪を巻いて、とっておきのリップをつけた。
それでも未来は変わらなくて、また一つ、タピオカを噛み潰す。
いつもの黒糖タピオカが、今日は全然甘くない。
眼に映るコンクリートがまだら模様に変わっていく。
せめて可愛いは最後まで貫きたいのだ。
せめて、こんな可愛い女の子を置いて先に進んだんだぞって、後悔させてやりたいのだ。
もうカップの底にタピオカはなくて、ぼやけた視界に君の姿はなかった。
我慢できなかった空が、可愛くない私を隠してくれた。
恋の味は少し苦かったけれど、仕事の味は甘いかもしれない。
だって味を決めるのは私じゃない。